英語を英語のまま理解する——よく聞く言葉ですが、実際には脳の中で何が起きているのでしょうか。この記事では「英語アタマ」の正体であるイメージ化と、単語を辞書の意味ではなく「価値」で身につけるという考え方を解説します。おうち英語が目指しているゴールが、はっきり見えてきます。
“apple” と聞いたとき、あなたの頭には何が浮かびますか。
「りんご」という日本語が浮かぶなら、それは日本語を経由した理解です。
赤い果物そのものの映像が浮かぶなら、英語のまま理解しています。
この違いが、「日本語頭」と「英語アタマ」の分かれ目です。
そしておうち英語が目指しているのは、後者です。単語をたくさん覚えることでも、文法を正確に使えることでもなく、この回路そのものを作ることが目的なのです。
言語習得の全体像については子どもはどうやって英語を身につけるのかをご覧ください。ここでは、その中核にある「英語アタマ」を掘り下げます。
英語アタマとは、訳を経由しない回路のこと
英語を理解するとき、脳には2つのルートがあります。
【日本語頭】
英語を聞く → 日本語に訳す → 意味を理解する
【英語アタマ】
英語を聞く → そのまま意味を理解する
一見わずかな違いですが、実際の差は決定的です。
訳している限り、会話には追いつけない
「英語→日本語」の変換には、時間と脳の処理能力を消費します。
会話は待ってくれません。一文を訳しているあいだに、相手は次の文を話しています。訳し終わった頃には、話題が2つ先へ進んでいる——これが、日本語頭のまま会話に臨んだときに起きることです。
訳すことをやめて、その分の処理を「英語のまま理解する」ことに使えれば、処理速度は劇的に上がります。
「訳さない」ことが英語力に直結する、と言われるのはこのためです。
読解でも、同じことが起きている
会話だけの話ではありません。
洋画を字幕で観て、なんとなく理解した気になる。多くの人が経験することですが、実際には英語の読解力が不十分なまま「読めている」と信じているだけ、というケースが少なくありません。
日本語頭のままでは、読むスピードも、理解の深さも頭打ちになります。
イメージ化——英語アタマの正体
では、訳さずに理解するとは、具体的にどういうことでしょうか。
その中身がイメージ化です。
イメージ化とは、英語を聞いたり読んだりしたときに、日本語訳を挟まず、直接その場面や意味が思い浮かぶ状態を指します。
- “She’s running late.” と聞いて、「彼女は遅れている」という日本語ではなく、急いでいる誰かの姿が浮かぶ
- “It’s raining.” と聞いて、訳す前に雨が見える
これは特殊な才能ではありません。日本語では、誰もが当たり前にやっていることです。「雨が降っている」と聞いて、いちいち分解して考える人はいません。
英語でも同じ状態を作る。それがイメージ化です。
右脳的な理解と、左脳的な理解
この違いは、こう整理することもできます。
- 右脳英語力:イメージや音声を直感的に受け取る力
- 左脳英語力:文法や語義を理性的に分析する力
日本の英語教育が育ててきたのは、圧倒的に後者です。
もちろん左脳的な力も必要ですし、中学以降の学習では武器になります。ただ、土台になるのは右脳的な理解のほうです。順番が逆になると、いつまでも訳す癖が抜けません。
幼児期のかけ流しがやっているのは、この右脳的な回路を先に作ることなのです。
単語は「語義」ではなく「価値」で身につく
英語アタマを理解するうえで、もうひとつ重要な考え方があります。
「語義」と「価値」の違いです。
- 語義:辞書に載っている定義。”run=走る”
- 価値:実際の文脈で、その単語がどう使われるかの感覚
“run” は「走る」ではない
たとえば “run” を「走る」と覚えた人は、こうした表現でつまずきます。
- run a company(会社を経営する)
- run out of time(時間がなくなる)
- My nose is running.(鼻水が出ている)
- The river runs through the town.(川が町を流れている)
「走る」という語義からは、どれも導けません。
けれど、”run” が持つ「何かが継続して動いている」という感覚——これをつかんでいれば、どの用法も無理なく理解できます。
この感覚こそが「価値」です。
価値記憶は、文脈の中でしか作れない
単語の価値は、文脈の中で何度も出会うことによってのみ身につきます。これを価値記憶と呼びます。
単語帳で「run=走る」と暗記しても、価値は身につきません。逆に、たくさんの英語に触れる中で “run” に何十回、何百回と出会えば、定義を教わらなくても感覚が育ちます。
日本語でも、まったく同じでした。
私たちは辞書を引いて日本語の語彙を増やしてきたわけではありません。何度も出会ううちに、いつのまにか使えるようになった。英語も同じ道筋をたどります。
だからこそ、親が意味を教える必要はないのです。むしろ日本語訳を与えすぎると、価値ではなく語義で覚える癖がつき、日本語頭のルートを強化してしまいます。
スモールワードこそが、英語の要
「価値」の考え方が、とりわけ重要になる単語群があります。
スモールワードです。
- スモールワード:have, do, like, see, make, get, take など。頻出で、多義的で、定義しにくい
- ビッグワード:具体的で、意味が明確に定まっている単語
意外に思われるかもしれませんが、英語を難しくしているのはビッグワードではなく、スモールワードのほうです。
“take” が使えないのは、”take” を知らないからではありません。意味が広すぎて、語義では捉えきれないからです。
前置詞が果たす役割
同じ理由で、前置詞も非常に重要です。
of, to, in, on, at, by——これらもスモールワードの一種で、動詞の意味を限定する働きを持ちます。
- look at(視線を向ける)
- look for(探す)
- look after(世話をする)
“look” 単体では意味が定まらず、前置詞が加わって初めて像が結ばれます。
前置詞を「訳語」で覚えようとすると必ず破綻します。大量の英語に触れる中で、感覚として身につけるしかない部分です。
生活言語と学習言語——ゴールはもう一段先にある
最後に、大切な区別をひとつ。
- 生活言語:日常会話の中で自然に習得される言語
- 学習言語:教室で学ぶ、より複雑で抽象的な言語
英語アタマができると、まず生活言語が伸びます。会話が聞き取れ、日常表現が自然に出てくる。
しかし、そこがゴールではありません。
学校で学ぶ内容、本で読む内容、議論で使う言葉——これらは学習言語の領域です。ここに届かないと、「話せるけれど、読めない・書けない」という状態で止まってしまいます。
生活言語から学習言語へ橋を架けるのが、読解力です。
音で英語アタマを作り、その上に読む力を積み上げていく。おうち英語のロードマップが、幼児期のかけ流しのあとに必ず「読む」段階を置いているのは、このためです。
まとめ
- 英語アタマとは、訳を経由せずに理解する脳の回路
- 訳している限り、会話にも読解にも追いつけない
- 英語アタマの正体はイメージ化——場面が直接浮かぶ状態
- 土台は右脳的な直感的理解。分析はその後
- 単語は語義ではなく、文脈の中で「価値」として身につく
- だから親が意味を教える必要はない
- 英語を難しくしているのはスモールワードと前置詞
- 英語アタマの先に、読解力=学習言語というゴールがある
「意味を教えなくていい」と言われても、最初は落ち着かないかもしれません。何もしていないように感じるからです。
けれど、教えないことにはちゃんと理由があります。教えた瞬間に、それは語義になってしまうからです。
再生ボタンを押し続けること。それが、いちばん確実な方法なのです。
▶ 次に読む:読解力とは何か
身につけた英語を失わないために、最後の鍵になるのが読む力です。
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